ギターのオーダーメイドを通じて | 中編-経緯と製作工程

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著者:木村家ヰサク
ギターオーダーの体験を通じて、いろいろなことを考察したいと思います。中編では経緯と製作工程について記述します。

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前回記事-前編ではオーダーメイドギターのスペックについて解説しました。
今回は経緯と製作工程について書いていきます。

前置き

私が初めてエレキギターを手にしたのは中学生の時。
ESPのMAVERICKに似た見た目の安物でした。

高校生の入学時にはお祝いとして親にGibsonのレスポールスタジオを買ってもらい、非常に気に入って使用していましたが、一方でとても重たくチューニングが狂いやすいのが気になっていました。

その後FenderUSAのシンラインを買ったときはノイズが気になり、ピックアップを交換しました。
太いネックも自分で削りました。
しかしフレットが小さくチョーキングをし辛いのが気になっていました。

Gretschのテネシーローズやシルバージェットを買った時はハイポジションの弾きづらさが気になり、Fujigenのムスタングではピックアップの音とピッチが気になり、GibsonのSGはネックの厚さとフレットの低さ、ペグが気になり、GodinのAcousticasterではサーキットが…。
その都度手を加えたりなんだりと試行錯誤しました。

手にした瞬間から完璧に自分の好みとフィットするギターと出会うことなど、私はそうそうありませんでした。
こだわりなどを持ち始めるときりがないものですが、しかし色々と持ち替えていくうちに自分の好みが把握できるようになっていきました。

理想のギターの構想

せっかく色々体験したので、自分の理想全てを詰め込んだものを作ったらどうなるのか試したくなりました。

要素ごとにリストアップする

まずはネックからサーキットまで、「このようにしたい」という要望をまとめたものをリストアップし、とりあえずイメージ写真を合成・作成してみました。

Ver1.0

レリック仕様のテレキャスターシェイプで、25フレットもあります。

次は採寸をより現実に近づけたイメージ写真を作りました。

Ver1.1

途中でイメージが変わって、今度は23フレットになってしまいました。

Ver1.2

見た目のバリエーションを変えたものも作ってみました。
見た目はいまいちしっくりこないものの、仕様(スペックシート)に関しては幾度か修正を入れて固まってきました。

※本来は仕様を完全に確定させてから見た目を作るべきですが、迷いがあるときはイメージ図を作ってみるのもありです。

どうやって作るか

最初は、既製品のギターを手に入れていろいろと削ったり替えたりするのはどうだろうと思いました。
作りたいのはストラト的な機能をもつ伝統的フォルムのギターなので、ストラトを削れば早いのではないでしょうか。


ボディ削り案

これはちょっと…なんだかよくわからないものが出来ました。

オーダーメイドへ

そんな折、かねてよりの友人である八田氏(ハイエンドミュージック)と相談し、「であればフルオーダーしてしまった方がよい」という提案を受けました。
また、氏の方でも別途レギュラーラインのモデルを作る計画があり、こちらとしてもオーダーギターを作りフィードバックを返すことでその支援になれば嬉しいので、仕事として依頼することにしました。

製作工程

まずは仕様を完全にFIXさせ、例によってイメージ写真を作成。
見た目をちゃんと決めるためにコンセプトを設定し、それを軸としました。

Ver2.0

完成形とかなり近くなりました。というよりもこの時点で完成形と大きな乖離があるようでは、自分のディレクション能力は非常にまずいということになります。
製作中に「やっぱり変える」というのは避けなければなりません。

参考にしたギターはFender Telecaster、Tom Anderson Short Hollow T、Strandberg Boden J6 Standardなどです。

モデリングと加工

スペックシートを基に3Dモデルを作成してもらいました。見ての通りチェンバーボディです。
94%のダウンサイズボディによって、小柄な人でも違和感なく構えることができます。

ボディ。

ボディーが出来てきました。技術的に難しいドロップトップ仕様です。

指板材

指板材を一番のアクセントとしたい意向があり、こちらサイドで探すもなかなか見つからず。
そんな折、氏から写真が送られてきました。

すばらしい材です。これで指板は決定です。

フレット溝、トラスロッド、インレイなどが仕上げられ、ネックが出来ていきます。
非常に細いネックで、手が大きくない人にとっては非常に馴染みやすいフィット感があります。

完成形が見えてきました。
ファンドフレットでは専用のブリッジを起用されるのが普通ですが、ウィルキンソンVS100Nの6弦を少し加工したもので対応されました。

ジョイントは特殊構造の4点留めです。

ピックガードもジリコテやブビンガ材を探したものの、気に入ったものが見つからず。
しかしちょっと変わったシースルーべっ甲のものがあり、そちらを採用することにしました。

フレットが打ち込まれました。いつもの通りエッジは丸みを帯びた形に処理され、手に優しい仕様となっています。
バズ・フェイトン・チューニングシステムもインストールされています。

ピックアップカバー

完全に見た目だけの話ですが、伝統的な2シングルに近づけるためピックアップカバーのカラーリングを合わせたいと思っていました。
「木材を使ってカバーが作れる」とのことで、指板材を使用してもらうことにしました。

ピックアップはすべてSuhrのMLです。

塗装、サンディングが完了。微妙に導管が残されています。
カラーはラッカーによる黒色ですが、黒と言ってもメーカーによっていろんな黒があるとのこと。
今回はその中でもかなり深い漆黒となりました。

ヘッド

ヘッドの鬼ロゴはアバロンです。
ゼロフレットということもあり、テンションバーを追加。

パーツ・アセンブリの組み込みが完了し、ギターが完成しました。

感想

完成したギターは、自分の理想を全てを詰め込んだだけあって不満0の完璧な出来です。
最初手にした時は慣れないファンドフレットと経験したことのない出来たて感があり、戸惑いもあったのですが数日の間に一気に馴染んでいきました。
プレイアビリティもアンプから出る音も素晴らしいです。

駆け足で書きましたが、それでも製作には実に多くの工程があり、一つ一つに手間が掛かり、相当な精度が要求される事が良く分かりました。

小曲を投稿しました😃


今回は主に工程と経緯について書きました。
次の後編では考察とまとめに入りたいと思います。

追記:書きました。後編はこちら。