ASUS PA169CDVのインプレッション

2024.05.10
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著者:Isaku
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ASUS ProArt PA169CDVが国内発売発表されました。
これはワコムEMRWacom feel IT technologiesに対応したポータブルなモニターで、15.6インチ・4Kの液晶ペンタブレットでもあります。

私は専業で絵を描いている人間ではないので、そういう方にとってこのエントリーはあまり参考にならないでしょう。

機材の用途や感性は人それぞれで、実際に使ってみるのが一番手っ取り早く理解できる方法です。
多人数に向けた一般的なレビューというのはあまり好きではないため、これもあくまで自分用の機材評価メモとなります。
それが少しでも情報が欲しい人のためになれば良いのですが。

前置き

自分は専門で絵を描く人間ではないが、ワコム社のペンタブレットとは長い付き合いとなる。
これまではFAVO、Intuos、SurfacePro2、Cintiq13HD、MobilestudioPro16、GalaxyNoteシリーズ、GalaxyFoldシリーズを使用してきた。
用途は楽譜の手書き、画像加工、メモ、打ち合わせ、絵描き などなど、
紙とペンの代わりにペンタブレットを使用している。

今回ASUS社からスマートなモバイルディスプレイが登場した。
こちらはいつものやたら電力を必要として熱くなる液タブ(Mobilestudio)とは違い、ファンレスで軽く省エネな機器ということで試したくなった。
ワコムEMR対応だが、こちらはWacom feel IT technologiesとなり、プロペンは使えない。

2023年末にB&Hで購入し、2024年の1月から使用開始。
WindowsPCで運用している。

全般

  • 5Vでも駆動する(PD 3A必須)
  • Altモード以外にHDMI+USBをそれぞれ接続しても動作した(Windows)
  • ペンの書き味は最高のペーパーライクではないがマットで描きやすい
  • Wacom Oneで使用するタイプのEMRペンと互換性がある。(Wacom feel IT technologies)
    Galaxy NoteのSペンでも書けた。
    プロペンは使えない
  • Android(Galaxy Note20 Ultra)との接続でもタッチ/ペンは問題なく動作し、筆圧も感知した
  • 24Hz入力対応で実際にカメラ(S5II / 24Hz, UHD)接続でも動作した
  • ファンレスであまり熱を持たない
  • 遅延はハード的には多分気になる程ではないが残像は目立つ
  • ProArtのアプリは他のアプリと干渉したのでアンインストールした
  • 底部の1/4インチネジはありがたいが、背面にしてくれた方が重負荷が分散できて良い
  • キャリングケースや電源アダプター、ケーブル類が付属している(使っていない)

ペン性能

  • 付属のProArtペンはON荷重が結構高めで使いづらい
  • そんなに試せていないがWacom One Gen1のペンが最も良い結果になった(Gen2やSペンなどは良くない)
  • ジッターは問題ないと思う
  • ペンのユーティリティソフトなどは今のところ一切ない

どんな性能なのかはドキュメントとマニュアルを見ればだいたい分かると思うので参考にされたし。
ここではスペックシートでは分かりづらいところを見ていく。

電力や接続について

電源の供給力によって450cd/m2(65W)モードと180cd/m2(15W)モードの切り替えがある。

Windowsで接続を行うとドライバーを入れずともペンとタッチ機能が使えた。
自分はAsrockマザーボードのThunderbolt3(Max15W PD)PDからのUSB-Cケーブルで電力供給とシリアルバス通信を行い、映像はグラフィックカードのHDMIを利用して接続している。

AdobeRGBモード SDR輝度100%の状態でUSB-Cの電力を計測すると4.7V0.5A程度だった。
消費電力自体は少ないが、最低15W PDが要件とのことで、従来のUSB-Aポートの電力だと起動できなかった。

100W出力できるPDのポートから電源供給を行うと、SDR輝度100%の状態で20V0.9A程度となった。

Wacom Link Plusを使用してAltモードでも接続してみたが何の問題なく動いた。
どの接続の仕方でも非常に安定している。

業務用カメラとの接続(24Hz,UHD)も問題なく動作した。

ハードウェア

質量は1kg程度で、ペンが使えるものとしては非常に軽い部類。
フルサイズのHDMIポートや2つのUSB-C端子は親切で機能的なシンプルさがあって良い。
ダイヤルは意外と使いでが無く持て余す。
1/4インチ三脚ネジは自重の負荷分散を考えると背面にしてくれたほうが良かった。底部だと広い面で受けられないため。
だがあるだけありがたい。あらゆるモデルに三脚ネジを付けて欲しいと思っている。

ディスプレイ性能

例によってモードセレクトがある(AdobeRGBモードなど)。
sRGBモードを使いたかったがこれは特定の色が変で、グラデーションのバンディングも目立った。
このままリファレンスとして使うのは難しく、ハードウェアキャリブレーションができる他の製品の方が信頼できる。
自分としてはソフトウェアキャリブレーションよりも、AdobeRGBモードの状態でリファレンスのモニターを肉眼で確認しながらOSDで手動で調整する方がまだ扱いやすかった。

遅延は計測は行っていないが気になる程ではない。

タッチ機能はハードウェア側で制御する。
要はOSDメニューからオンオフを切り替えるが、5ステップほど手順を踏む必要があり手軽に変更できない。

ペン性能

付属のProArtペンはON荷重が高めで、いわゆる太めの描画になる(個体差の問題かもしれない)。

この辺りは情報が公表されていないので色々試してみる。

何本かのペンを試してみた結果、Wacom One Gen1のペンが最も良い結果になった。
いわゆる細い線を描くことができる。

ProArtペンは細く描こうとすると線が消え掠れてしまう。芯を替えても結果は同じ。
Wacom One Gen2はさらに悪い結果となった。
Wacom One Gen1のペンは限界まで細く描くことができた。


雑な比較!筆圧による細さ/太さの限界をテスト。黒い塊は傾き検出の実験。

しかしこれらの結果は個体差の問題である可能性もある。
Wacom One Gen1の別パッケージ(ロットが違う)の個体を試すとやや悪い結果となった。

視差は全くもって気にならない。

ジッターは問題ないと思う。

描き味はMobilestudioPro16ほど摩擦はないが、iPadのようなカツンカツンしたものとも違う。
両者の中間のような感じでマットだ。
自分は違和感なく慣れ使うことができた。

ペンのボタンとユーテリティ

今のところペンのユーティリティ関係の提供が無く、調整などは一切できない。
サイドボタンなどの割当機能もなく、Windowsのペンのデフォルトの割当となる。
ProArtペンはテールボタンがあり(押すとやや凹む構造)こちらが消しゴムとなっている。
Wacom One Gen1のペンはサイドボタンのみ。

ワコムが古く提供していたFeel Driverなど色々と試してみたがどれも互換性はなかった。
今のところはシンプルに使うしかない。
将来何かしらの提供があるとありがたい。

ProArtのアプリは他のアプリの動作がおかしくなったりと干渉したのでアンインストールした。

モバイルディスプレイにワコムEMR機能が付いただけのもの

ペン性能はおそらくWacomOneやGlaxyTabと同じくらいの感じと思われるが、カスタマイズ性やユーティリティは無くシンプル。
PA169CDVはあくまでモバイルディスプレイにワコムEMR機能が付いただけのものという雰囲気だ。

ペン周りで言えば前使用していたMobileStudioPro16(デスクトップモード)よりダウングレードとなると思うが、自分には十分。
紙に鉛筆やボールペンで描く感覚で使用できる。ファンがなくて静かだ。

またポータブルで4KのEMR液タブといえばXencelabsのペンディスプレイ16が発表された。
ウェブサイトの情報を見る限りではマルチタッチ機能はないが、ファンレスで8192レベルの筆圧検知を謳う。
こちらはより専門的でプロユースな使い方ができると思われる。